皆様こんにちは。日本は緑のまぶしい季節だと思います。また、4月に新学年が始まり学校に目が向くことも多い時期だと思います。そういったこともあって、今回は、WilmingtonとChapel Hill TEACCHセンターのプレスクールにおける自閉症支援の取り組みについてお伝えしたいと思います。次回は Wilmingtonにおける小・中・高校の様子をお伝えする予定です。
日本にいる頃、ノースカロライナでは、すべての学校で、すばらしい自閉症支援が行われていると思っていました。しかし、現実はそうでもないようで、カウンティ(郡のようなもの)間で教育支援には大きなひらきがあるようです。TEACCHは学校へのアドバイスや教師やパラエデュケーター(教師資格はないが教師の指示のもと生徒をサポートする人)のトレーニングなど、カウンティを単位とした支援を行っています。しかし、こうした組織的な支援もカウンティの教育局が各TEACCH センターに依頼する必要があり、その依頼をしないカウンティもあるそうです。現在のアメリカは ABA(応用行動分析)なども人気で、学校や保護者が自分たちで選択して支援を要請するということも多いようです。また、 TEACCH の各センターでは、こうしたカウンティ全体への支援以外に、診断を受けたお子さんについて、学校訪問、教師へのコンサルテーション、 IEP(個別教育計画)ミーティングへの出席など、きめこまやかな支援を行っています。
ところで、アメリカでは州、群、市によって教育システムが異なります。Wilmingtonでは、公立の場合、学年は、プレスクール(3〜5歳)、キンダーガーデン(5〜6歳)、1年から5年までが小学校、6年から8年までが中学校、9から12年までが高校となります。また、休暇はカウンティごとに異なりますが、同じ Wilmington でもイヤー・ラウンド・スクールといって9週ごとに3週間の休みのシステムの学校もあり、そこでは夏休みも3週間です。自閉症スペクトラム( ASD )の特別クラスの種類ですが、セルフコンテイン(知的障害を伴うお子さんが入るクラス)とセンターベースト(知的障害を伴わないお子さんがはいるクラス)があります。また、ASDに限らず、LD、ADHD などを対象としたリソースルーム(通常クラスから一定時間抜き出して、1対1でお子さんの苦手な科目などを教えるクラス)は各学校にあります。ASDのクラスとしては、幼稚園・小学校ではセルフコンテインのみとなり、決まった教室で一日を過ごします。中学・高校になると、セルフコンテインとセンターベーストのクラスが用意されています。センターベーストは学校内のASDのセンターという意味で、そこを中心に通常級にいくクラスです。スピーチセラピストは学校に常駐していることが多いのですが、そうでなくても、週の一定時間、スピーチセラピーや作業療法(OT)の指導が受けられます。こうしてみると、やはり日本よりかなり手厚い気がします。また、ASD のための特別クラスにはいるには、自閉性障害、アスペルガー障害、広汎性発達障害のいずれかの診断が必要です。
Wilmingtonがあるのは、ニュー・ハノーバー・カウンティですが、ここの教育局には、ASDや障害児の担当官が数人います。この担当官は、各ケースのコーディネートをしており、保護者と面談したり、直接学校に出向いて教師と話したり、IEPミーティングに参加したりしています。特に高機能自閉症担当の方は、TEACCH と常に連携して仕事をされています。ただ、こうした担当官もすべてのカウンティに設置されているわけではありません。
■Wilmingtonの公立プレスクール(幼稚園)
Wilmingtonの公立のプレスクール(幼稚園)のスペシャル・クラスの様子をご報告します。プレスクールでは、ASDだけのクラスはなく、知的障害などのお子さんも混合しています。年齢は4,5歳児です。2クラスあり、1クラス5,6人で担任の先生以外にパラエデュケーターの方が2人いらっしゃいました。1つのクラスを主に見学しました。幼稚園に到着した時は、集まりの場所(サークル・エリア)で3人の子どもたちが、”wetとdry”について、ぬらした紙と乾いた紙を触りながら学んでいました。先生は、消防士の帽子(消防署の見学が予定されており、その準備もあって、担任は消防士の姿をされていたとのことです)を被り、玩具のホースで水をかけては順にその紙を触らせたり、実際に掌に水をかけたりしていました。部屋には他に2人の子どもがいましたが、その子たちは、パラエデュケーターの先生と一対一で個別課題をしていました。3人の子どもは、集まりが終わり、担任の先生が絵のスケジュールを使って遊びを選択する時間であることを示されると、集まりの後ろのボードのところに行き、フリータイムの遊びを選び、それぞれ選んだ場所に行って遊びを始めました。パラエデュケーターの先生が遊びのサポートに入り、個別課題をしていた2人が、今度は、グループ活動を始め同じ課題“wetとdry”を学んでいました。こうした個別課題、遊び、集まりの場所は、それぞれ棚やマットなどで明確に仕切られ物理的構造化がきちんとされていました。しかし、個別のスケジュールは使用していないようだったので、質問したところ、新学期になって日が浅いので、様子を見ながら個々にあったスケジュールを作る予定とのことでした。自閉症以外のお子さんにもスケジュールを作るとのことでした(自閉症でなくても、視覚的なスケジュールの提示はとても役に立つようです)。
■TEACCHプレスクール(幼稚園)
Chapel HillのTEACCHセンターでは、独自のプレスクールを持っています。プレスクールは、TEACCHが提供しているEarly Intervention(早期介入)サービスの一つで、就学前の2歳から5歳の子どもを対象にしています。TEACCH プレスクールの目的は、ASDにとって幼児期にどのような教育が必要であるかを考え、それに基づいてASDに特化した教育モデルを開発することです。その形態や内容によって6グループに分けられています。グループ1はホーム・ティチングといって戸別訪問指導です。その他は、TEACCHセンター内にあるプレスクールで行われ、グループは週1回が4グループと週2回が1グループで、年齢と機能によってわけられています。週1回のグループの子ども達は、地元のプレスクールを併用している場合がほとんどだそうです。見学させていただいたのは、グループ1のHome Teaching(戸別訪問指導)とプレスクールのグループ3です。
グループ3は、毎週木曜日の午前中に行われています。概ね3,4歳でのクラス活動をやっていました。言葉のないお子さんもいる比較的機能の低いお子さんのグループです。お子さんは4人で、先生が2人にノースカロライナ大学の学生が1人という体制でした。
部屋は30畳くらいで、高度に物理的構造化がなされています。明確に視覚的に区切られた1対1のワークエリア(課題学習のエリア)、自立学習スペース、さらに遊びの場所、アートの場所、集まりの場所(サークルエリア)、スナックを食べる場所などが作られています。完全に一つの場所が一つの活動に対応するようになっていて、子ども達がその場所でどういった活動をするのか予測しやすくなっています。
子ども達には、それぞれに個別のスケジュールが準備されていますが、このグループでは、最初(first)次(next)という2つの予定を示すスケジュールで、提示は写真や実物を用いていました。子ども達は、スケジュールに従って、次の活動へと場所を移動していきます。プレスクールでも、課題をワークシステムにしたがって行うように指導されています。1対1課題の時も、課題は左手に並べられ、それを教師と行ってから終わると右側のフィニッシュボックスに入れていきます。1人で行う自立課題でも、子ども達は、ワークシステムに従って、課題を自分だけで行い終了していきました。 子ども達は、それぞれのスケジュールで、1対1課題、自立課題、アート、遊びを一巡するようになっています。その後、お帰りの前に、部屋の中央に低めのボードで仕切られたスペース(サークルエリア)で集まりがあり、簡単な手遊びなどを行っていました。集まりの時には、やる活動の写真がボードに張られ、終わると取り外されていきます。
今回驚いたのは、スナックタイムにほとんどのお子さんが特別なダイエットをしていたことです。ダイエットとは、自閉症やその他の発達障害に対応するために、砂糖を一切食べないとか炭水化物をとらないとか、特殊な配合のピーナッツバターをなんにでも塗って食べるとかといったもので、科学的な根拠はないようにも思えましたが、それぞれのお子さんが、ダイエットのレシピにそって、各自のスナックをもってきていました。


■ホーム・ティーチング(戸別訪問指導)
3年前からはじまったプログラムで、プレスクールのカリキュラムの1つと位置づけられています。もともとは、個別指導やプレスクールの待機が多くなり、その解消のための方法を模索する中で、特に年少の場合、家庭という落ち着いた環境のなかで教育をすることの有効性も考えられてのこのプログラムがうまれました。プレスクールでの指導との違いは、@家庭という日常の生活環境の中で行うということ、Aプレスクールでは同年齢児との集団活動といったソーシャルスキルも目的の一つとなるが、ホーム・ティーチングは大人との相互関係を中心とした完全な個別指導であること、B保護者が主体的に参加できることなどがあげられます。ホーム・ティチングの利点の一つに、家庭での実際の子どもの様子をみることができることもあります。そして、こうした情報や指導過程はTEACCHセンターに報告され、その後の支援の貴重な資料となります。担当は、Ron Faulkner先生で、障害児クラスの教師を経てTEACCHで働いてこられたセラピストです。お一人で、この事業を担当されている先生は、最初は、教材作りから始めとても大変だったとおっしゃっていました。しかし、3年目の現在も、週5日毎日3ケースの個別指導をされていて、その忙しさはたいへんなものでした。残念ながら、このサービスは、Chapel Hill TEACCHセンターとRaleigh TEACCHセンターのエリアのみをカバーしている事業であり、他の地域では受けることができません。他のセンターでは、数回の個別指導セッションのうち1回を戸別訪問にあてるケースもありますが、このプログラムのように、組織化されたものではありません。
ホーム・ティーチングでは、週1回、全12回(約3ヶ月間)にわたって指導をしています。1回のセッションはおよそ1時間半で、最初の1時間がお子さんへのセッションで、残りの30分でご家族と家庭での指導や構造化の相談を行います。各回でテーマがあり、視覚的構造化、スケジュールといった構造化の基本からはじまって、トイレットトレーニング、身辺自立、遊びなど一般的な生活スキルまでをとりあげています。このプログラムの終了後は、保護者の希望に応じて、プレスクールに入ったり、センターでのフォローになったりするそうです。最近では、このサービスへの申し込み者が増加したため、現在は2,3ヶ月待ちだと言われていました。また、幼児期の教育の場合、こうした戸別訪問形式とプレスクールのような形式のどちらが有効か、また、保護者の満足度はどちらが高いかについて、現在、TEACCH部で研究調査が行われているそうです。
実際のホーム・ティーチングに同行されていただきました。教材ばかりでなく、指導用の机、いす、棚などまでを載せたバンに乗ってでかけます。指導記録のボックスは置くところがなく、私の膝の上でした。そして訪問家庭に到着すると、机や棚を組み立て、教材をセットして、セッションを開始します。訪問したお家のお子さんは、2歳すぎで3回目のセッションということでしたが、すでに、セッションがとても楽しみな様子で、机に座ってどんどん課題をやろうとする意欲的なお子さんでした。ワークシステムも完全に理解していて、自分で課題をやってはフィニッシュボックスにいれていました。そして、課題が終わると、「もっと」と課題をせがむこともあって、その様子がとても可愛らしかったです。セッション終了後、Faulkner先生はお母様に、この日のテーマについて資料を渡し説明をしていました。また、お母様が自分で作った教材を見せ、それに対して先生が、お子さんが興味を持ちそうな教材の作り方などをアドバイスしていました。


(写真は、現在Fayetteville Center留学中の田中恭子先生にご提供いただきました)