今回は、悲しいニュースをご報告しなければなりません。すでにご存じの方も多いと思いますが、7月7日に、 TEACCH の創始者である エリック・ショプラー先生がお亡くなりなりました。ショプラー先生は、それまでの自閉症の原因は養育態度(親子関係)にあるとした考え方に疑問をもち、臨床的な研究から自閉症は認知障害であるという結論に達して、それをもとに支援方法を考え、現在の TEACCH の構造化の方法をつくっていかれました。公式の葬儀は9月7日に行われる予定ですが、7月14日の土曜日、 Chapel Hill でセレブレーションと呼ばれる会がありました。故人の思い出を語り合う会といった趣で、心温まる会でした。ご家族、現在の TEACCH 部門の総責任者であるメジボフ教授、自閉症のお子さんを持つ親御さん、近所の方など、皆さんが語る先生の思い出から、ショプラー先生は、自閉症の臨床、研究だけでなく、家庭人としてもコミュニティーの一員としても、すばらしく、また創造的な方であったことがよく分かりました。 ショプラー先生が愛されたものを表現したケーキをご家族が作られていました。ファームの様子や TEACCH の文字といっしょに、「愛」という漢字がありました。ショプラー先生は、何度も日本を訪問してくださり、 TEACCH のすばらしさを伝えてくださいました。心から、ご冥福をお祈り申し上げます。奥様のマギーさんから参加者にプレゼントされた Eric's seeds (エリックの種)を大事に育てたいと思います。種を包んだ袋には、“・・ never ever be afraid to speak up for what is right, especially for those who don't have a voice and always have a sense of humor" (真実を述べることを恐れてはならない、特に、声を持たない人々のために、そうすることを決して恐れてはならない、そしていつもユーモアをもっていよう)とあります。
さて、今回は、TEACCHで有名な5-day trainingと、日にちが前後しますが、メイ・カンファレンスについてご報告します。
■5 day training(ファイブ・ディ・トレーニング)
毎年夏にTEACCHの基本的な構造化についての実践的な研修が行われます。月曜日から金曜日まで5日間をかけて行われるので、ファイブ・ディ・トレーニングとよくいわれますが、正式には、クラスルーム・トレーニングといいます。この研修は、TEACCHのいくつかのセンターで行われていますが、私はChapel Hill センターの研修に7月10日から14日まで参加しました。Chapel Hillセンターでは4週間続けて同じ形式のトレーニングが行われます。また、プレスクール(4歳児まで)に対象をしぼったトレーニングと、様々な年齢を対象としたトレーニングに分かれていますが、私は後者に参加しました。研修会場であるホテルのミーティングルームに教室のセッティング(写真:下左)が作られ、実際にASDの方に来ていただき研修に協力していただきます。研修参加者は、5,6人の小グループにわかれて役割分担をしながら、アセスメント(評価)し構造化を考え実行してみることによって、TEACCHの方法を体験的に学びます。参加者は27名で、アメリカ全土だけでなく、カナダ、シンガポールからも参加者がありました。職種は、教育関係者、心理、言語療法士などです。また、学校で自閉症の生徒さんを担当し、すでにTEACCHで学級経営をしている方から、今回、初めてTEACCHを学ぶという方まで様々でした。
初日の研修は講義で、この週に学ぶ構造化やその基礎となるアセスメントのポイントについて学びました。2日目から、いよいよ実際にASDの方といっしょに学びます。参加してくださったASDの方の年齢は4歳〜19歳で、知的水準も重度から高機能と様々でした。毎日関わるASDの方は変わるのですが、こうすることによって、いろいろなタイプの方と接することができ、幅広く勉強できるようになっています。テーマは、2日目「構造化された指導」、3日目「コミュニケーション」、4日目「視覚的に構造化された課題と応用(自立課題について)」、5日目は「余暇スキルとソーシャル・スキル」です。各側面について、参加していただいたASDの方それぞれに、この研修におけるIEP(個別教育計画)が組まれています。それぞれの目標があり、実際の評価とともに、それも意識しながら構造化や課題を考えていきました。研修の一日の流れは「講義→トレーナー(指導者)によるモデルセッションでのアセスメント→小グループでのディスカッションと構造化された課題の作成→研修者によるセッション→セッションのアセスメントと課題の見直し→研修者による2度目のセッション」。アセスメントをしてから、研修者のセッションまで、1時間ほどで課題をつくる必要があり、大忙しでした。課題作成時には、さまざまな材料が置かれている部屋(写真:下右)から好きな物を使うことができるようになっています。「構造化された指導」では、構造化の基本である、スケジュール、ワークシステム、一対一での指導、自立課題などの様子をアセスメントして、その中で、一対一での指導でとりくんでいた課題を自立課題にしていく構造化にとり組みました。知的障害を伴わない12歳のお子さんで、一対一で取り組んでいた封筒の宛名書きを、彼の好きなコンピュターと指示書を使って自立的に行うことができました。「コミュニケーション」では、知的障害を伴う4歳のお子さんについて、具体物を通してシャボン玉遊びやおやつの要求をする場面などをアセスメントして、彼が今もっているコミュニケーション・スキルを他の場面で応用することを考えました。彼が非常に好んでいた砂遊びを砂をいれたケースを渡すことで伝えるという課題を作りました。また、その後、遊びの選択も試みました。「視覚的に構造化された課題と応用(自立課題)」では、知的障害を伴わない14歳のお子さんについて、算数の学習場面を観察して、マクドナルドのメニューを選んで金額を計算した後、実際のお金を用意する課題を作りました。その後、家庭での課題として、指示書に従って、クッキーを作るという課題にも取り組みました。「余暇スキルとソーシャル・スキル」では、19歳の知的障害を伴う方について、余暇スキルとしてビーズのネックレスの作成、また、ソーシャル・スキルとして買い物リストをもって地域に買い物に出かける課題を行いました。毎日、ASDの方の帰宅時には、1日の活動を記録したノートを親御さんにお渡しし同時に家庭での様子をうかがったりと、とてもフレンドリーな時間を持つこともできました。また、今年から新しい試みとして4日目に、2時間ほど小グループに分かれて、自分の興味あるテーマのセッションにでるという時間が設けられました。テーマは、「行動上の問題」「シュー・ボックス課題」「統合教育」「他の精神障害との関係」の4つでした。私は、「行動上の問題」に参加しましたが、研修参加者の質問に対しTEACCHの構造化の支援を強化する必要が強調されていました。
私は、今回の留学の総復習という意味で、この研修に参加しました。5日間の研修は、1年間学んだTEACCHの支援方法を振り返りながら実践してみる場になったと思います。貴重であると同時に楽しい研修でした。アメリカ各地やそれ以外の国のTEACCHの実践家に出会えたことも大きな収穫だと思います。
また、以前、日本でこうしたトレーニングに参加したことがありますが、その時の物理的構造化と違って、Chapel Hillセンターの研修では、あまり、高い仕切などは用いられず、写真のように、より自然な印象でした。また、コミュニティー・サンプルをとる場合も、無理に支援のない場面をつくって、ASDの方のコミュニケーションの難しさをみせるといったやり方とは違って、すでにASDの方がもっているコミュニケーション手段を指導セッションで使っているところを観察してから、そのコミュニケーションを他の場面に応用するといった研修内容で、協力してくれているASDの方により優しい配慮がされていたと思います。


■メイ・カンファレンス
5月18日・19日に、メイ・カンファレンスに参加しました。正式にはTEACCH Annual Conference(TEACCH年次総会)で、今回は27回大会でした。毎年5月に行われるので、通称がメイ・カンファレンスです。この会は、毎回テーマがあり、そのテーマにそってTEACCH部の活動が報告されると同時にゲスト・スピーカーの講演が行われます。今年のテーマは「Autism
in Adolescents & Adults(自閉症の青年期・成人期)」でした。ちなみに、このテーマは第1回目のカンファレンスと同じだそうです。現在、TEACCH部は早期診断、早期支援に熱心に取り組んでいますが、その一方で、成人期の支援にも重要な柱であることは、この27年間かわることがありません。成人期を見据えた早期からの支援こそが非常に大切なのだと考えられています。カンファレンスは、イギリスの就労支援のプログラムの報告、ABA(応用行動分析)からの成人期のアプローチの報告、成人期の当事者の方の体験談、成人期の自閉症をもつ親御さんの体験談などでしたが、その中で「性についてどう伝えるか」というテーマのTEACCH部の発表をご紹介します。
日本でもそうですが、ここアメリカでも、性の話はタブー視されるようです。親御さんが避けて通りたい話題の1つだそうです。TEACCHでの実践は、Raleigh センターのメアリー・バン・ゴーディアン先生(CLLCのセンター長を長くされた方)の発表でしたが、伝え方は、絵などを用いた非常に具体的なものでした。認知的なアプローチと考えられるものが中心でした。また、統計的なデーターをとおして、性も自閉症の成人の生活のQOLを考える上で欠くことのできないものであることを示されていました。性については日本でもタブー視されがちで、誰が、どう伝えるかは大きな課題だと思います。また、フロアからは、性についての認知的アプローチだけでなく、情緒的な部分についてもっと伝えるべきではないかといった意見が出ていました。こうした意見交換が気軽に出来るのも、このカンファレンスのよいところだと思いました。
TEACCH インターナショナルインサービス(TEACCH国際総会)
毎年、メイ・カンファレンスの直前に行われます。今年は、5月16・17日でした。メイ・カンファレンスほど有名ではないようですが、世界からTEACCH関係者が集まり、各国の実践について聞くことができます。同時進行でいくつかの発表がされます。また、同時にTEACCH部からの最新情報の報告などがありました。TEACCH部からは早期診断、Pivot(ABA)との関係、メンター組織(親御さん同士のカウンセリング・システム)、サポート・グループ活動についての発表がありました。
ここでは、Chapel Hill センターのマーカス先生の発表「自閉症の成人と自閉症の成人をもつ親へのサポート・グループ」の中のCBT(認知行動療法)の要素をとりいれた当事者のグループについて報告します。また、その後、実際に親グループと当事者グループに参加させていただいた時の様子を報告します。
現在、Chapel Hill・Raleigh TEACCHセンターには、母親グループ、父親グループ、青年期のASDのお子さんをもつ親グループ、成人当事者のグループなど様々なグループがあります。他のセンターでも、いろいろな形態の、親グループや当事者のグループがあるのですが、Chapel Hillでは、成人当事者についてグループセラピーの要素をいれたグループをされているところが大きな特徴だと思いました。今までの、成人のサポート・グループは、ソーシャル・グループと呼ばれることもあるように、ソーシャル・スキルに重点をおいた会でしたが、マーカス先生が現在行っておられるグループは、CBT(認知行動療法)の要素をとりいれ、一定のテーマについて、メンバーがかなりつっこんだ討論をしていくグループとなっています。ファシリテーター(進行役)は、2人(必ず専門家であること)で運営され、ASDについての理解を深めたり、就労や一人暮らしなど一定のテーマについて認知的な理解を深めるといった明確な目的をもって運営されています。頻度は、ほぼ月に2回で、年間を通して行われます。対象者、年齢は20歳以上で、カウンセリングによる効果が得られると思われる人(17,18歳時に個別のカウンセリング・セッションを受けたことがある人がほとんどで、そしてそこで効果があった人だそうです)、グループセッティングに参加できる人、他者と話したり話を聞いたりすることに意欲のある人、明かな人格障害がない人です。グループは、7、8人のメンバーで構成されます。会では、スケジュールや資料などは視覚的に構造化されたものが用意されます。毎回テーマがありますが、テーマとして、自立、援助つき就労、住居、行動マネージメントなどです。メンバーは固定制で、回を重ねるごとに、グループへの帰属意識が形成されるとのことでした。また、ディスカッションを通して、ASDの特性理解を深め、また、問題解決の方法を学んでいくなどの効果があるとのことでした。メンバーの意志がとても尊重され、新しくメンバーが加わる時は、メンバー全員の承諾が必要になります。マーカス先生は、最後に、こうしたグループの効果について、参加前後の比較調査することが今後の課題であると締めくくっておられました。
■実際のグループの様子
その後、実際に、親グループと成人の当事者の会に参加させていただきました。会場は、クリエーティブ・リビングといって、ASDの方たちが余暇活動の絵や音楽を楽しむために作られた施設です。親御さんは、10人ほどで、ご夫婦が2組おられました。親御さんのグループも成人の当事者の方のグループもともに、進行役は、発表をされていたChapel Hill センターのマーカス先生です。この親御さんの会は、月1回の開催で、9月に始まり、6月に一応終了するという形をとり、毎回、就労、グループホーム、余暇の過ごし方、などのテーマが設けられています。私が参加したのは6月で、年度の最後にあたり、自由なディスカッションとなっていました。簡単な自己紹介の後、それぞれのお子さんの現在の様子を話されました。その中に、お子さんが就労したばかりで不安をもっておられるご夫婦がおられ、他の親御さんが丁寧なアドバイスをされていました。また、親御さんが関心のある診断の経緯やグループホームの様子など様々なテーマがでていました。マーカス先生がお話をされることは少なく、親御さん同士の相互支援的な色彩が強い感じでした。
成人当事者の会は、CBTに重点をおいた会は、マーカス先生ともう1人の心理セラピストがファシリテーターとなっていました。6月末に参加したのですが、その日、前回、就労についてゲスト・スピーカーを招いたので、就労についてのメンバーの現状、計画について話す予定でした。しかし、メンバーの方が、初めて親御さんから独立して、アパートで共同生活を始めたことを報告し、急遽、その話題について話し合うことになりました。自立する上で必要な具体的なスキル、また、共同生活をする上で大切な事などが、ファシリテーターが主導する形で話し合われました。2人のファシリテーターは、アドバイスする側になったり、進行する側になったりしながら会をすすめられており、マーカス先生が発表の中で、ファシリテーターが2人であることの重要性を強調されていた理由を実感することができました。
当事者の方のCBTに重点をおいたグループが、私のいるWilmington TEACCH センターでも、6月末から月1回始まりました。やはり、まず、ASDの理解を深め、自分の強みと苦手な点を知る、また、生活上の困難について、その問題にどう対応するかについてディスカッションをするという形式です。視覚的に自分の考えなどを整理するシートが多く使われています。また、日々の問題や考えを整理するため、日記を書いて毎月もちよることも試みられています。まだ、はじまったばかりのグループですが、今後が楽しみです。
1年間の私の留学も終わりの日(8月末)が近づいています。私の留学便りも、これで最後となります。留学便りを読んでいただいた皆様、どうも有り難うございました。下の写真は、左がノースカロライナ州の東端・Wilmingtonの大西洋の写真、右がノースカロライナ州の西端・Ashevilleのチムニーロックの写真です。どうぞ、お楽しみ下さい。今度は、よこはま発達クリニックでお目にかかるのを楽しみにしています。

